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ブランディング経営インタビュー

ホテルという事業軸に、デザイン、Webの要素が掛け合わさることによって生まれる経営効果や成果、
そして今後の展望についてじっくりとお話を伺いました。

ホテル再建への背景

筒井:
ホテル支配人とデザイナー、そしてWeb制作会社という異色メンバーでの対談ですが、どうぞよろしくお願いします。今回、宇佐さんはこちらの日出のホテルをリニューアルされたわけですけれども、もともとは「ホテルアルバ」さんという名称でしたね。購入当時は赤字経営だったのですか?
宇佐
赤字というよりは、半ば営業していないような状態でした。
前オーナーがおひとりで運営されていたので、需要があっても取り込むだけの営業のキャパがなかったのでしょう。
筒井:
ではなぜ、そのようなホテルを購入し経営しようと思ったのですか。
宇佐
ホテルにきてオーナーさんとの雑談含め話を聞いていく中で、運営が上手く行かない原因がわかり、ここを改善すれば行けると感じたからです。

一番大きいのがその当時はWeb露出が0で、楽天やじゃらんなどのポータルサイトにも掲載されていませんでした。実際に宿泊した人の口コミをGoogleマイビジネスで投稿確認すると、5段階評価の平均2前後という結果でした。また以前から人口10万以下のホテル経営も興味がありやってみたいとの気持ちがありました。その規模の町には、私が考える快適に宿泊できるホテルはない事が多いからです。

インバウンド市場ではなく
なぜ地方の日出町を狙ったのか

筒井:
コロナ禍になる前、別府はそれこそインバウンドでたくさんの外国人観光客の方が入ってきていましたが、日出町はインバウンド市場ではありませんよね。なぜ、インバウンド需要のないエリアを選んだのでしょうか。
宇佐
私の経営スタイルはインバウンドのイメージが強いでしょうし、実際にインバウンドでも数字を上げてきました。記憶では2012年頃から個人の受け入れを開始しました。まだ世間がインバウンドで騒ぎだす前ですね。
ただ、特化したわけでもありませんでした。国内のお客様と同じようにどんどん改善を重ね品質を上げ、レビューを上げ次につなげるその循環を作っただけです。

日出町は、実際の商圏として杵築や国東も想定できますし、別府のように毎日大勢のお客様は来ないにしても、ぽつぽつと来るのではないかと考えていました。実店舗を使って、いろいろと試みたいと思ってはいます。

旧ホテル「アルバ」とのヒストリー

筒井:
そもそもが、日出という場所に目をつけていたということですか?
宇佐
いえ、売却物件に出ていたので、建物を見て「やってみようか」という感じでしたね。物件を初めて見に来たのは2019年8月でした。オーナーさんにコンタクトを取って、お会いして、ホテルが建った背景から営業の実績などをいろいろと話を伺いました。その時点で3~4社ほどの競合(購入希望)がいましたね。

いろいろなタイミングが重なって、最終的には私が落札しました。2019年12月末に購入することになったのです。
筒井:
「ホテルを売却したかった」ということは、前オーナーさんは経営をお辞めになる予定でいらしたのでしょうか。
宇佐
ご年齢のこともあったでしょうし後継者の方もいなかったのと。ほぼすべて1人でやっていましたから。難しかったと思います。そこで、基本的なことをやればどのくらいの実績を出せるかやってみようと思ったのです。
  • ▲ 旧ホテル「アルバ」の客室

  • ▲ リニューアル後の「ホテルfico HIJI」の客室

なぜ建築士だけではなくデザイナーに依頼したのか

筒井:
ここからは、ホテルのことに関してお話を伺っていきます。
一般的にホテルデザインに関する部分は、建築会社に依頼して作り込んでいくというイメージですが、なぜデザイナーさんに入ってもらったのか経緯を教えてもらえますか。
宇佐
別府第一ホテルではこれまでずっと、「デザインで伝える」に取りくんできました。そこでunidの櫻井さんに入っていただいて、いろんな仕事をしていただいています。

私たちが目指すホテルには、やはりデザイナーさんがいないと成り立たないと言いますか。最初から“他とは違うホテル”を作り上げたかったという思いはありますね。
筒井:
櫻井さんが関わったのは、全体的なブランディングの部分ということでしょうか。
櫻井
当時は、全体のブランディングまでは着手していませんでした。まずは小さいもの、“タッチポイント”となる媒体のご依頼をいただきましたね。
室内に入ったお客様に、「こういった思いがある」ということをきちんと伝える・表現するためのいわゆるコミュニケーションツールとして、媒体をそろえていきました。

“快適な滞在・眠れるホテル”という点をキーワードにして、そこから羊(のイラスト)が出てきたり。言葉だけではなく印象で伝えていく、というところが私たちは得意なので、そのツールを作っていきました。
宇佐
痒いところに手が届くといったような、細かいサービスのそれぞれの点の部分をデザイン物で見える化していきましたね。
筒井
通常であれば、お金の掛けどころとしてはまず大きなところから、ですよね。 それをあえて“タッチポイント”という細かい部分にかけたのは、別府第一ホテルでの体験からきているものなのですか。もしくはそれが重要だとわかっていてのことですか。
宇佐
都市部であれば“リーズナブルで快適なホテル”は選べますが、人口が10万人以下の都市では少なくなります。そこをホテルだけではなくデザイナーさんに入っていただいて時代に受け入れられ、また、リードしていける宿泊施設にしようとの考えです。

自分たちが取りくんでいる細かなところ、たとえば掃除にしても、しっかりとデザインを用いた見える化をして行きました。

▲ホテルficoのunid制作物の一部。情報が価値に変わりブランドに昇華させている。

筒井
別府第一ホテルでの体験があった中で、次にficoさんの依頼をunidさんが担当されましたが、どのような依頼がありましたか。
櫻井
依頼としては、ロゴ制作と、先の別府第一ホテルさんで作ったツールをそのまま置きかえて使いたい、という話でした。当初は何も決まっていない状態でしたが、先のホテル経営のお話も伺っていましたし、話が進む途中段階で“fico”というホテル名称が宇佐さんの中から生まれました。
宇佐
それをお伝えして絵を描いていただきました。

▲ホテルficoのunid制作物の一部。情報が価値に変わりブランドに昇華させている。

櫻井
ficoは“いちじく”という意味なのですが、“いちじく”を起点に“快適な滞在”とをつなげたようなイメージを抱きつつ、宇佐さんが「地域にとってのスポットとして、開かれたホテル・ひろがり」を考えていらしたので、きちんと言語化をしてお互いの考えやイメージをすりあわせながらデザインを考えました。
筒井
お客様へのおもてなしを考えたとき、デザインを通じてこだわったところなどありますか。
松本
宇佐さんが思い描くホテルの在り方や、成功後の展望を伺う中で、まだまだ途中段階でしたが、宇佐さんが作りたいと思われているficoを表したいなと思っていました。

そこで、宇佐さんの考えていることはどういった事なのかを掘り下げて考えていく中で、“コンフォータブル(心地よい)”という言葉に到達しました。別府第一ホテルは“眠り”に特化していますが、お話を伺っていくと、快適や心地よいという心理的なメッセージ性が高いような印象がありました。

こちらにはミーティングルームや、ホテルであっても運動ができるスペースを備えていたり…。地域の人に開かれたホテルで、光って明るくなるようなイメージですね。ホテルだけではないニーズや役割も伺っていたので、そこをイメージしながらデザインに落とし込みました。“いちじく”もすごく気に入っていただけて良かったです。
宇佐
このデザインはわかりやすい、ぱっと見てホテル名がわかる、というところで決まりました。今じゃ、このロゴにすっかり愛着が湧いていますね。

Webサイト制作について

筒井:
ロゴデザインができあがって、今回のようなコンセプトが決まった中で、「如何にして同一性を出していくか」というのもポイントに関わっているかと思います。Webのほうにはどのような要望が来ましたか?
下川
当初は、ありきたりではなく「スタイリッシュさを目指している」と伺っていたので、unidさんの作ったコンセプトを生かして、できるだけ洒落た感じのサイトにしたほうがいいだろう、というところからスタートしました。
筒井:
デザインを受けた時は、Web担当としてどうでしたか?
下川
私としては、譲渡後間もないアルバさんだったころから、何度もお話を伺って打ち合わせ内容もプロジェクトメンバーと共有していたので、「いよいよリニューアルして変わるんだな」という思いでいましたね。

コンセプト情報を集めていく中で、この日出町でホテル業をやるという点に着目し、紙媒体では表しづらい「動き」の部分がWebに求められる表現役割だと感じました。

安らかな眠りを連想して、やわらかい揺らぎ、落ち着く空間、なだらかなカタチを表現できたらと思い、Webデザインを作成しました。

手順に沿ってページを作っていく中で、文の表現や写真なども宇佐さんと細かく打ち合わせして、ディスカッションをしながらお互いの思いを重ねていきました。

そこで、当初希望されていた「スタイリッシュさ重視」では、これからホテルを予約したい方にとっては少し不親切になってしまったり、わかりづらい部分も徐々に見えてきました。

また、ficoさんができあがっていく中で生まれる新しい情報や、定まっていなかった設備面などもページに盛り込んでいきながら、着々と完成に近づけていきました。
宇佐
Webサイトの出来は相当いいですよ。スタイリッシュさを重視したサイト制作からスタートしましたが、ホームページを作るからにはそこから売れないと意味がありませんからね。落としどころを探していって、落ち着いたかなと思います。
筒井:
別府第一ホテルさんでもWebにはすごく力を入れていましたよね。別府は観光地であり激戦区ですが、日出エリアの場合は周辺の状況が大きく違います。ここに力を入れた理由はなぜですか。
宇佐
それは私の中にある「毎日満室」という信条からですね。それをやり遂げるには、いろいろな部分に本当にこだわらないとできない、難しいというのはありました。

現状、日出エリアでのクオリティは見えていない部分もあります。購入間もなくコロナの影響で大きく落ち込みましたから。ここでいろいろなノウハウを蓄積していけば、次につながるという思いがあって。何もここまで大げさにする必要はないのかもしれないけれど、できることはとにかくやっています。
筒井:
そうですね、地域ナンバーワンというのは、圧倒的な地域優位性に必要かなと思います。マーケティング面で見ても、日出町には大手ホテルチェーンが参入していますよね。そこが競合となった時にお客様からどのように比べられるのか、という話を以前もなさっていましたね。
宇佐
fico HIJIは客室数も少ないですし我々の特色を生かし集客努力をしたいです。実績も単価、稼働率、も上昇してきました。Googleのレビューも(以前の2.1から上昇して)4.6になりました。まだ改善すべき課題は多いですが、ある程度良い方向で行っているのかなと感じます。

運営面について

筒井:
コロナ禍で現状はなかなか指標にしづらい部分もあるとは思いますが、こちらの物件は購入された時点で築年数20年と伺いました。建物としては若い方でしょうか?
宇佐
若くないですがそれぐらいの宿泊施設は沢山あります。築50年なんかも珍しくありません。メンテナンスは重要ですが。

前オーナーによくよく話を聞くと、こちらのホテルはオープンから10年ほどはものすごく稼働していたけれど、後の10年はそれほど稼働しておらず、エレベーターなど大型設備機械も、それほどガンガン使っていませんし傷みは少ないようでした。
筒井
設備面で苦労された点はありませんか?
宇佐
最初はかなりありました。いろいろありすぎて結構弱りました(笑)最初からリニューアルの予定がありましたが施設のメンテナンスの重要性を再認識しました。リニューアル後はかなり改善されたと思います。
筒井:
集客面でのご苦労はありますか?
宇佐
当初から想定していた通り、やはり苦労しますね。コロナもありますがそれでも徐々にではありますがリピーターのお客様もあり少しずつですが前進していると思います。コロナが落ち着いていたタイミングでは集客できていたと思います。腰を据えて頑張りたいと思います。

周辺地域との関わり方について

筒井:
そもそも別府のホテル業で成功されていて、「周辺地域と共存したい」と考えているオーナーさんが日出に進出したわけですが、観光課へあいさつに回られたり協力を仰ぐということもなさいましたか。
宇佐
それはもちろんです。そして、日出町観光課の方はすごく親切ですね。以前に「宿泊予約が入ったグループの大型バスを停められる駐車場をどこか紹介してくれませんか」と問い合わせたところ、すぐに、町が所有する土地で停められるところがないか、いろいろと調べてくださいました。広報などの掲載情報も提供してくださいます。

別府は街自体がすごくブランド化されているので、日出の親切さとはまた違う、という感じですね。こちら(日出町)の方がやはり、温かい対応をしてくれます。
筒井:
fico HIJIでは「地域に開かれたホテルづくりを形成したい」という話を伺っていますが、どんなことを計画されていますか。
宇佐
設備的にはレストランが完成した段階ですが、まずは地域の方や日出町の人に向けたサービスであったり、ゆくゆくは、昼間に飲食店として解放したりだとかができれば、と思っていますね。私も最近はここ(ミーティングルーム)でずっと仕事をしているのですが、ゆっくり仕事ができてやりやすいですね。
筒井:
レストランもシェアオフィスのような雰囲気と様相がありますし、とてもいいですよね。

運営面での取りくみ

筒井:
運営面についてですが「クレームがあった時に、細かいニーズにすぐ対応する」とお聞きしています。これについてエピソードがあれば教えてください。
宇佐
あるお客様から、「国道側の部屋は車の音がします。自分だけが気になるのかもしれないので、気になるような神経質な方はお気をつけください」という口コミレビューをいただきました。また、別のお客様からも同じような投稿があり、その後に「国道側の部屋はやめてほしい」といった問い合わせが結構な頻度で入ったので、すぐに国道側の部屋全部を2重サッシにしました。

この周辺は夜8時以降になると車なんてほとんど通らない(笑)のですが、気になる人は気になるのでしょうね。そのようなお客様の声には、なるべく早く対応するようにしています。この口コミはとても長いレビューでしてね。「それで部屋を変えてくれました」ということで最終的には5くらいの評価をいただいていました。
筒井:
それでも、稼働が見えていない段階で追加投資にはなかなか踏み切れないもの。数字的なものをあえて無視して、お客様の満足度を上げるために取り組む、というのは、別府第一ホテルで培った文化のようなものがあるのですか。
宇佐
そうですね、やらないことで失う部分の方が大きいと判断しました。全部やりかえるには、結構お金がかかって大変だったのですが。国道に面していない部屋へ優先的に予約を案内するのが実際に難しかったですし。

口コミやレビュー1つ1つをきちんと読んでお客様は来てくださっているので。同じように感じるお客様(のレビュー)が続くのであれば、将来的に見ても窓をやり替えた方が良いと思ったのです。

今後の多店舗展開について

筒井:
今後の構想はありますか?
宇佐
日出での営業歴が浅いのでこれからではありますが、しっかりと力を蓄えていきたいです。人口10万人以下の都市は自分が実際に「ホテルが少なくて不便だな」と感じたところや、もっと宿泊施設があったら良いのではないかと思うエリアはリストアップしています。人口が少ない街にはリーズナブルでキレイな宿泊特化型ホテルがなかなかないのです。人口や産業がなければ商売が成り立たない可能性があります。

実は先日知人が、人口3万ぐらいのある街のホテルに泊まった時に、タオルの追加をお願いしたら怒られたんです(笑)。その施設のやり方もありますし経営者が高齢の場合、その宿泊施設を否定する気はありません。しかしそれを普通にしてたら大変な事になりますよね。双方の言い分はありますが怒られたらいい気はしません。あそこのホテルのサービスが悪いとすぐ広まります。なので小規模の都市でもお客様の求めるサービスを提供でき、かつ運営が成り立つ事が確認できれば考えたいと思います。まだまだこれからではありますが頑張ります。

我々はありがたい事に数多くのアワードをいただいています。そのサービスをもっと多くの方に知っていただきい。泊まりたいところにいい宿があれば旅の選択肢が広がります。またその街の良さを広めるのも我々の使命だと思います。大変ですが頑張ります。
筒井:
金融機関の反応はどうですか?
宇佐
金融機関の方には親身になって話を聞いてくださるし、別府の方での実績もあるので良い条件で提示もしていただいています。
筒井:
先ほど、デザインのタッチポイントの話がありましたね。お金の掛けどころではなくて、「ここはすごく丁寧に作った」「ここを見てほしい」といった強弱はあったのですか。
松本
細かい製作物で、私たち(デザイン側)に一番近いところは基本的には全部です。 宇佐さんが「これが欲しい」と言われるものは、すべてがお客様目線で考えられていて、ここ最近では環境に配慮するポイントの表現などもあって、すごく良いなと思いました。そのようなニーズに宇佐さんはいつもキャッチされているので、デザイン側での優劣や上下というのはそれほどないですね。
筒井:
今日は日出のホテル経営について、これまでの経緯や基本的な理念、それに基づいたデザイン・Web製作サイドとの連携、また共同作業部分の作り込みについて話を伺いました。皆さん、ありがとうございました。